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ほぼ月記

あの夜が永遠になってほしかった

 

 

 

 

“そう、部屋の片隅に座っている、少し大きめの冷蔵庫。

空っぽに近い中身はきっと僕自身なんでしょうね。”

 

脱退が告げられたのは0927だったけれど、本当のラストライブは1003だったので実質のところは今日で丸十年ということになる。おかしいな、記憶だと1004だったはずなんだけど。あまりにも無責任だなと思う。

 

予定がちらほらあるせいでなかなか連休が取れず、2日休みで無理矢理実家に帰ってきた。未だに仕事終わりに日付を跨いで高速を走っていることに慣れない気持ちがある、遠いところに来たなあというような感慨がある。

10年前から一番変わったことってなんだろう。先日バンド曲を大幅に増やしたWALKMANのシャッフルを聴きながら考えていた。アイドルの曲は今日はなんだか受け付けない気持ちがして全部飛ばした。メリー、ムック、lynch.、時々X JAPANとかメトロノームとかギルガメッシュとか挟みながら、まあやっぱり一番は車の運転だろうなと思った。あとは仕事の面とかダイエットとか資格取ったとか数えようと思えばそれなりにあると思われる。反対に出来ないままのことは。恋愛結婚転職、挫折した資格にコミュニケーション、自分の感情を抑えること、機嫌に振り回されないこと、節約摂生、休みの日に出掛けること、書くには取るに足らないことまでいくらでも出て来てやっぱりわたしは出来ないことを数える方が得意だなと思う。

季節とBGMのせいでいろんなことを考えた。今の推しに立てている透明な衝立、あのこには出来てわたしには出来ない理由、少し選択を変えれば手に入れられていたかも知れない幸せ、好きだった音楽。ろくでもないことばっか考えて、あと6年だしと区切る。メリーのBlind Romanceを聴く度、高校の同級生が一番好きな曲だって言ってたなと思い出す。フォロワーさんは真っ赤な青い春…が好きだと言っていた。良いよね〜分かる。人が熱烈に好きだったバンドで一番好きな曲ってすごく気になるし、ずっと覚えていたい気がする。その人のテーマ曲みたいになるのが楽しくて。わたしは何だろうなあ。R-246とか片道切符も好きだし、【collector】とかもすき…あーやっぱ梟、窓…でも結局のとこチック・タックかなあ。冬はチック・タックと最後の宿題の2曲さえあれば良いと思ってたし。夏はムックの家路とさよなら、スターダストの2曲ね。

なんて考えながら、他のバンドやアーティストは最愛を決められるけどcali≠gariだけはいっつも決められなかったなと思った。相当重たいものを天秤にかけて絞り出すならさよなら、スターダストだって過去書いたことがあるし、それは今も変わらないだろうけれど、やっぱり他のバンドと比較しても1曲1曲の存在感が大きすぎて決めがたい。何なら知り合い人質に取られでもしないと答えられないまである。

自分の中で青さんの曲のベストアルバムがあんのよ。そしてそのほとんどどれもを通い続けたライブで聴けた。「東京負け犬エレジー」さえ聴けたんだから。聴けなかったのはたった1曲、「ただいま」だけだった。聴けなかったから余計に特別になった。どの曲にも自分にしか伝わらないエピソードと、そして他人と分かり合いたいとは思わない思い入れがある。

 

実家に着いたのは1時をまわったあたりだった。母との会話もそこそこに自室に戻る。破れたカーテンがそのままになって、誰も使わないから建付けが悪くなって窓も開かない暑くて狭くて鄙びた部屋だ。エアコンもない。だから夏は帰らない。

ラムフェスのためにアパートには1枚もないcali≠gariのTシャツを持って帰ろうかと思ってグッズをまとめてあるボックスを漁る。保存用を買う癖のせいで新品みたいな大量のタオルとTシャツ、ちょっとしたキーホルダー類。タイミングを逃したせいで朽ち始めることも出来ない。だから買ったものは買ったその日から使わないといけないんだと学んだ。使いどころはそのときしかない。綺麗なままのこれを一体どうすればいいのか。

「『依存』という名の病気を治療する病院」の再録が決まったとき、悲しみを怒りにすり替えてそのとき部屋にあった全てのCDやDVDやグッズ、チケットや写真を力任せにダンボールにぶち込んだ。そして実家の自室の床に置いてきた。さすが住む人がいない部屋は時が止まっているなと思う。そのダンボールがそっくりそのまま置いてあると来た。多分久しぶりに友達とライブに行くから浮かれているんだろう、たくさんのラババンを取り出そうとして、そう、あるんだよね、そりゃあるよね、第7期終了のDVDが。

 

一度も見てない。見れるわけなかった。

何度も再生ボタンを押そうとした。自分の中でけりを付けたかったんだろう。1年が経ったとき、2年が経ったとき、3年が経ったとき、なんとなく目についたなんでもないとき。全て無理だった。野音のステージの映像で瞬時に停止ボタンを押した。ましてLOFTの映像なんて全く見てない、どう収められているのか何にも知らない。そして、再録が決まって、こんなもんもう見ようとすることもないわって投げたんだった。そうだ。

今なら見れるんだろうか?

見たい、とは、思えないかな。

 

 

夕方、宵のうち、繁華街が賑わい始める中で呼ばれる整理番号。嫌な思いとかしんどいこととか回数行けばそれなりに遭遇していた筈なのに、いつだってライブハウスの中に怖いものなんてなかったよ。好きな音楽を爆音で聴いて、好きなバンドマンが目の前にいて、好き勝手に踊って、笑って、メチャクチャになって、自分のことなんて全部忘れた。忘れられた。呼吸が苦しくなるほど盛り上がった狭い箱から出た夜の空気。人生で屈指の宝なんだよ。

出来ないことを今から出来るようになれなくてもいい。ひとりでいいし、他人と幸せを分かち合うことが出来ないままで死んだっていい。誰にも愛されなくても何の価値も持てなくてもいい。だからお願い、人生でもう一度、ひとつだけ願いが叶うなら、どの日でもいい、どの時点でもいい、死ぬほど好きだった第7期cali≠gariのライブの夜に戻りたい。明日のことなんて考えられないくらい切なくて、あるかも分からない次を思うと今にも泣きそうになって、だけど現実とは思えないくらい楽しくて幸せな、生きてて良かったって思えたあの夜に帰りたい。

あの夜が永遠になってほしかった。

 

 

ほとんど覚えてないんだ、今日のことは。なんでか0927のことの方がまだ記憶にある。1週間後なんて休み取れないよって半泣きになりながらどうにか午後から休みをください他の日出ますからって頭を下げて都合をつけた。そういうやりとりは覚えているのに、箱の中でのことなんて朧気ですらない。

でもたったひとつ、たったひとつだけ、ライブの終盤も終盤に、新宿LOFTの低い天井と客席との差の少ないステージの間に見た青さんが、

「帰れないよね」

と投げかけたことだけは覚えている。優しい声だった。