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おなじことをなんどでも書く

恋は信仰

 

 

 

 

 

 

 

わたしの人生で最大のそして最後になるであろう恋は2014年の今日に終わった。あれから8年が経った。長いんだが短いんだか分からないが、10年一昔というから、昔といえるわけでもないが決してつい最近でもない。なんとも中途半端な数字だ。

その年月の間に結婚して子供が出来て…といった人生における何かしらの読点があればもっと語ることもあったかも知れないが、ほとんど何も変わらず、句点を打つことも出来ず、精々からがら就職をしたくらいでわたしは今もただ漠然と生きている。楽しくもない仕事をし、車を運転して家に帰り、うまくもない飯を作り、食べて、眠り、起きて、その繰り返しだ。

 

恋は信仰。おおよそアイドルやバンドにハマる人にとってはそういうものだとは思うが、わたしにとっては最初からそうだった。初恋の相手も特別仲が良かった男の子とかではなく、見目麗しく少し翳りがあるように見えて、そこが好きだった。作り込むようにして好きだった。そういう種類の人間なのだ。

 

14時間の拘束を経て帰宅した夜、あまりにも疲れて眠れなくて、もう前回を思い出せないくらい久しぶりにあるプレイリストを聴いていた。人生でいちばんの恋、つまり人生でいちばんの信仰。たったひとりの神様。

愛されていなかったわけじゃないことは解っていても誰の一番にもなれなかったわたしには、わたしにとっての何にも代えがたい一番が必要で。選ばれないのならば選ぶことでなんとか自分を救いたかった。そういう存在がほしくて選び、そして焦がれた。

焦がれる。こんなにもあの感情を表すのに的確な言葉があろうか。好きだけでは飽き足らず、愛と呼ぶには潔くも柔らかくもない。ただただ恋い焦がれた。まだなんとか思い出せる。再来年にはどうかな、きっと思い出せなくなっているような気もする。そうだったらいい。これ以上自分を虚しく縛るものも、ひとりの人間を人間とは思わない行為も続かないほうがいい。

 

 

あの頃は聴くもの全てが自分の物語に成り代わり、それがあまりにも新鮮で、誰の言葉も借りたくなかったわたしが唯一この人の言葉になら全てを委ねてもいいと思った。

今ではそれらは他人の物語になりつつある。それはわたしがあの頃のわたしとは明確に変わったということで、あまり嬉しくはないけれど喜ぶべきところなんだろう。

 

 

 

でも未だに、未だにこれは他ならぬわたしのことだと思うものがあるよ。それらは多分この先どんなに時間が経ってもずっとずっとわたしのもので在り続けるし、そう言い張っていたい。よろしくないな。ここ数年で全て手放せるという確信があったのに、ねえ、それでもこういう夜は苦しさのあまり手放したくないと思ってしまう。縋ってしまう。本当にどうしようもない。

信仰心は少しずつ解けていくのに、焦がれた心は燻っていつか灰になるのに、自分でもどうにも出来ないところに、手の届かない奥深くにまでいつの間にか残されてしまった夢のあとがあって、もう叶うことがないとこんなにも分かっているのに捨てられない。それがわたしをつくっている。わたしはその夢のあとでできている。

 

嫌でも一生それを引き連れて生きていくのだ。忘れながら、疎みながら、隅っこへ追いやりながら、それでもこのたった数曲を抱えてこれからもただ生きていくだろう。立ち止まるためのファクターとしてここに在る。そういう曲に出逢えて良かったと思う。そういう思い出があって良かったと思う。わたしの人生最大の、そして恐らく最期の恋があなたで良かったと思うよ。たくさん泣いたしたくさん憤ったしたくさんしんどくなったけど、それ以上にどうしようもなく焦がれ、愛し、死ぬほど好きで、そして許してほしかった。帰結がいつもここなのには我ながら困ってしまう。恋は信仰、信仰は許しを請うこと。恋とは許しを請うことだ。わたしの存在を許してくれ。誰にも許してもらえなかったわたしを他ならぬあなたに許してほしい。そういうふうに好きだった。そんなような恋だった。ごめんなさい。だからうまく終われなかった。綺麗に仕舞っておけなかった。

謝るだなんて、それすら。

 

 

 

わたしにとってのたったひとりの神様は、酒を愛し、辛いものが好きで、若干お金に汚く、セックスが好きらしく、それだけいったらまあまあアレな奴なんだけど、そのくせ作るものがとてもとても美しく、強く、辛辣で、汚らしくて、そして優しかった。

もうただのひとりの人間にしてあげなくてはならない。始まってしまった恋は終わらせてあげなくてはならない。信仰は愛にはなれない。

 

 

…笑っちゃうな。わたしは最早出涸らしだ。最後のつもりで書いていた。金輪際もう二度と書かないつもりで書いているのに。折に触れて聴く度にどうしようもない気持ちになって泣いてしまう。そうして出てきた僅かな涙の跡を残しておかなくてはいけないような、思い出して書かなくてはいけないような、そういう日が人生には必要な気がしてしまう。

 

でももう、もういいだろう。許してもらいたいというしようのない欲望を捨てるためには自分で自分を許すことを覚えなくては。未だにさよならを言えないでいた無様さを、過去ばかり追いかけるくだらなさを、今ごと未来を止めたいやるせなさを、自分に許さなくては。

 

 

 

 

苦しいことのほうが多かった気がするけど、ほんとはそんなことなくて、人生で一番楽しかったよ、あなたとあのバンドに恋をして追いかけている間が。手から滑り落ちてしまったものもあるかも知れないけど、それでもたくさんのものをもらったよ。まともな人間になんてなれなかったけど、あの瞬間は本当に本当に幸せでたまらなかったよ。生きててよかったと思った。生まれてきてよかったと思えた。一生分の楽しさを、幸せを、あなたが見せてくれたんだよ。

陳腐な言葉しか出てこなくて嫌になるけど、つらかったことさえ含めて、あなたを好きになって本当に良かった。ありがとね。ありがとう。大好きでした。そして、さよなら。さようなら、ありがとう、わたしの最初で最後の儚くまばゆい恋心。今度こそ成仏するんだよ。